お知らせ
5月24日(土) 茅野市諏訪郡歯科医師会 学術講演会

5月24日(土)、茅野市のマリオローヤル会館にて、茅野市諏訪郡歯科医師会学術講演会が開催されました。
講師には、東京科学大学大学院 総合診療歯科学分野 准教授であり、同大学病院 顎関節症外来 診療科長である西山暁先生をお招きし、「TCHを学びなおしてみよう!」という演題でご講演いただきました。
TCHとはTooth Contacting Habit(歯列接触癖)の略称で、「上下の歯を持続的に接触させる癖」を指します。講演では、TCHには睡眠時または覚醒中に生じるものがあり、特に覚醒時の接触癖の方が持続的な疼痛を生じやすいと説明がありました。また、咬合圧の観点からは、強い一時的な咬合圧よりも、弱い長時間の接触癖の方が疼痛を継続しやすいとのことでした。弱い接触が続くと筋肉が低酸素状態に陥り、疼痛閾値が低下することで痛みが発生します。正座後に足がしびれ、感覚が過敏になる状態に似ていると、例えを用いてわかりやすく説明してくださいました。
TCHによって引き起こされる症状は、顎関節症や、歯周疾患、知覚過敏、さらには義歯による疼痛など多岐にわたります。日頃の診療で不定愁訴として捉えられがちな疼痛にも、TCHが要因の一つとして関わっている場合が意外と多いことを学びました。また、この痛みは覚醒時の接触に起因するため、早朝よりも夕方にかけて増加する傾向があるとのことです。
原因としては、安静空隙の消失によって生じる一次性のものと、姿勢の悪さ、不正咬合、咬合不良、歯ぎしりといった咬合を確認する行動、あるいはストレスなどによる筋肉の緊張が引き起こす二次性のものがあるそうです。
治療の目的は、接触を完全に止めさせることではなく、その頻度や持続時間を減らすことにあります。具体的なアプローチとして、患者自身に咬筋や側頭筋を触らせて緊張を自覚させる、噛みしめた瞬間に気づかせることで「くいしばり」を意識させる、ランダムにアラームが鳴るアプリ(BruxApp)などを活用して「気づき」を促すといった方法が紹介されました。単に接触を止めさせるのではなく、このような「気づき」を通じて行動変容を促すことが重要であると先生は強調されていました。
TCHという概念は10年以上前から提唱されていますが、今回の講演で改めてその知識を再確認することができました。昨今ではAIを用いて情報を簡単に検索し、要約できる時代になりました。しかし、このように専門家の先生から直接話を聞いて学ぶというプロセスは、知識を記憶に定着させる上で非常に重要であり、今回の学術講演会は大変意義深く、印象に残るものでした。
(野村寿男 記)